徒歩20分くらいにある温泉銭湯にでかけた。
屋上に露天があり小さな紅梅が咲いてなかなか趣がある。
夕焼けに染まっていく流れる雲をぼんやりおいかけ
膨らみかけた半月が輝くグラデーションの空、そんな贅沢時間。
ごごごーっと重低音が近づいてきた。
予定通りオリンピックの繁忙期に備え変更があった着陸ルート。
23区のうち渋谷品川大田区あたりを過ぎて羽田へ向かう。
機体の文字まではっきり見えるぐらい高度を下げてきた。
大井町駅では地上330mになる。東京タワーくらいだ。
すさまじい轟音に隣の人との会話もままならない。
このあたりは主要幹線道路、鉄道、新幹線、が走っており
移動のための土地が多くそれなりの地鳴りと振動は日常茶飯事。
自称92歳の女性が、恵比寿で空襲にあい死体を乗り越えて逃げたと話す。
低空飛行のB29のパイロットと目が合ったという。
同級生はほとんど死んだ。
短冊みたいに投下された爆弾で地上は地獄に変わった。
こんなことをどうして繰り返してしまうんだろう。
誰にとってもいいことなんてひとつもなかった。
同じような背格好の娘さんは
あの窓からこっちのお風呂もみえちゃうんじゃないかしら、と
10分おきにやってくる飛行機を見上げていた。
いくど話題を変えても戦争の話は繰り返された。
彼女は銭湯にくるたびに飛行機の轟音を聞くと戦争のことを思いだし
ゆっくりできるはずなのに後悔や怒りや決意を語るのだろうか。
そんなリラックスしたささやかな日常が変わっていくこと
一生かかっても語りつくせない、戦争で感じたこと
音を通してリフレインされなければならない理由はないはず。
脱衣所で一緒に髪を乾かしながら
最近は挨拶もお疲れさまも言うような人がいなくなった、
こんなこと言ってたらまたババアうるさいって言われる、
とあまりにおっしゃるから
だれも言う人いませんから言ってやってください、と言うと
そうね、言えるのは生きている間だけよね、とお返事があって
やっぱり逞しい人生の大先輩!