予定がキャンセルになることが近年まれに見るくらい増えている昨今。
「思い通りに行くことなんてほとんどないね」で一致した、リンゴ畑の大先輩たちと。
自宅御籠りで煮詰まり裏山にふらふら出かけたら
リンゴ畑にお二方が日向に座っておられた。
ご挨拶しつつお花がきれいに咲いていますね、なんて話しかけてみる(ドキドキ)。
親子でゆるり作業中であったらしい。
お母様はいったん畑は辞めたけどまたやりたいと息子?がいうもんで
再開してこの年までこんなことやってますわ、
この年まで生きると思わなかったしこんなことをしていると思わなかった、
足以外内臓は元気で何でも食べていられる、歩けるって素晴らしい、
姉が96歳で元気まだお迎えは難しい、と仰る。
息子殿は「いくつに見える?びっくりする年だよ~」に始まり
この花摘みだけは手作業でしなければいけない、
花の色が薄いのは王林だからだ、この辺一帯の杏子がもとになって千曲市へ広がった、
もともとはこちらが出発点だった、みんな住宅地に変わってしまった、
あんたどっからきたの、など。
大先輩方々は矢継ぎ早に様々なことを教えてくださる。
世間話を楽しんだのち近くの諏訪神社へ。
当たり前のように巨樹がありまだ山桜がはらはら舞って西日を受けていた。
野良猫、旺盛な野草たち、ヤマブキにがゆらゆら枝ごと揺らいでいる。
山影に陽が隠れるまでゆっくり歩く。
下山のとき息子殿が梯子に座りリンゴの花をむしっていた。
花は5つ、まとまって咲くけれど実がしっかりなるためには一つにする、
そのために花を摘み取っておるとのこと。
鳥がエサがないときに花を食べる。
その時のように豪快に花を摘んで投げていた。
その花を拾う。
「何にするん?すぐにしおれちまうだよ」
「花の香りをかいでみたいんです」
まだ赤いつぼみもどんどん落ちてくる。
花が降ってくるリンゴの木の下にいて、
拾った花を広げて丘にすのまま座る。ぼんやり空を見上げたら薄い月。
フラワーエッセンスの作業とはこういうものなのかなと思う。
集めた花々は
だれしもが一旗揚げてやろうと咲くとして
思い通りにならないものだ、と思っているのだろうか。
かれらが束になって伝えてくれたのは
青っぽいのに苦い、土のような温かさにほのかに甘い蜜の香りだった。
息子殿の娘が迎えに来た。
陽が延びていたとはいえ影ると風がまだひんやりする。
「お先!」
まるで同僚にかけてくれるように爽やかにおかえりになった。
両手いっぱいのお花を窓辺に広げ
潜在意識でしか嗅げないような香りを一晩楽しむことにしよう。
どんな夢をエスコートしてくれるでしょうね。